%#BIBTEX pbibtex -kanji=utf8 tech-hajimete %#!platex -kanji=utf8 %% %% 研究報告用スイッチ %% [techrep] %% %% 欧文表記無しのスイッチ(etitle,eabstractは任意) %% [noauthor] %% % (replace-string "、" ",") % (replace-string "。" ".") %\documentclass[submit,techrep]{ipsj} \documentclass[submit,techrep,noauthor]{ipsj} \usepackage{url} \usepackage[dvipdfmx]{graphicx} \usepackage{latexsym} \def\Underline{\setbox0\hbox\bgroup\let\\\endUnderline} \def\endUnderline{\vphantom{y}\egroup\smash{\underline{\box0}}\\} \def\|{\verb|} \begin{document} \title{地域住民の思いを残す \\「おらほの町の『思い』伝承マップ」の提案} %% \affiliate{IPSJ}{情報処理学会\\ %% IPSJ, Chiyoda, Tokyo 101--0062, Japan} \affiliate{JU}{東北公益文科大学\\ Tohoku University of Community Service and Science} \author{佐藤直人}{}{JU}[c115087@g.koeki-u.ac.jp] \author{本間可楠}{}{JU}[c115144@g.koeki-u.ac.jp] \author{大谷宏行}{}{JU}[c115036@g.koeki-u.ac.jp] \author{広瀬雄二}{}{JU}[yuuji@koeki-u.ac.jp] \date {平成30年12月8日} \begin{abstract} 少子高齢化時代が加速し,30年後に消滅する都市が懸念される今,現存の生活や地域の伝統をデジタルアーカイブの形で後世に残す試みが活性化している.こういった試みでは「誰が」「誰に向けて」「どのようにして」「何を伝えるのか」ということを明確にすることが必要である.本研究では「地域の記憶を次世代に繋いでいく活動」をマップによって支援する.地域の記憶や情報を「誰に」「何のために」伝えたいのかという「意図」を反映するマップ「おらほの町の『思い』伝承マップ」を提案する. \end{abstract} \begin{jkeyword} 情報処理学会論文誌ジャーナル,GIS,ストーリマップ, \end{jkeyword} \maketitle \section{はじめに} 東日本大震災を契機にOpenStreetMap(OSM)等のオープンデータをベースとした地 理情報の活用が進んできた.東北公益文科大学(以下,本学)でも酒田市地理情報システムさかたまっぷのコンテンツ作成研究事業にて,OSMやその上に自由な個人マップを作れるシステムuMapを採用し,多くの地図コンテンツを開発した.類似の手法は文献~\cite{hayakawa} にもみられ,多くの人からの情報を集約した電子地図の作成に有効であることが示せた. また,歴史的価値を持つ文化的資産に時間軸を加え4次元的広がりを持ったデジタル アーカイブ化する動きも活発化している~\cite{okada}. \section{先行事例} 地域課題についてマップで解決を試みた先行事例がいくつか存在する.\par 郷土食WEBマップによる地域と時間の表現の提案~\cite{河村郁江2017郷土食}では 郷土食を通して地域の理解や知見を知る取り組みとしてGISを使った事例である.郷土食の中から餅をとりあげ,日本各地の餅に関する情報を時間軸ごとにマップ上に表示する「もちマップ」を作成している.利用者がより地域を理解できるようなシステムとUIの向上を課題にしている.\par スマートフォンを活用した防災マップ作成支援システムの開発と授業実践の評価~\cite{120006454008}では, まち歩きをしながら写真や文章をマップ上に表示する編集システムを作成している.作成する側が地域理解を示し,防災への関心をもたせることを目的としている.実際に使用し,防災マップ作成に参加することで防災意識を高めることが出来たとしている.撮影した写真の位置情報に埋め込みにGPS機能を使っていて実際の場所とのズレが生じてしまうことを課題としている.\par こうしたGISを用いた地域貢献の活動は本学のある山形県酒田市でも行われている.その事例を次節で述べる. \section{山形県酒田市日向地区での事例} 山形県酒田市日向地区では国土交通省の「平成29年度雪処理の担い手の確 保・育成のための克雪体制支援調査」に採択され,GISを用いた水路マップの作成を行った~\cite{josetsu}.これには本学のプロジェクトにて学生が実地調査,撮影を行いuMapを使用し,作成した(図\ref{u_suiro_map}).また,この講義で作成したデータを用いて水路に近づくと注意を促す危険箇所通知ナビ(以下,通知ナビ)を作成した(図\ref{n_suiro_map}). \begin{figure}[h] \begin{center} \includegraphics[width=60mm,clip]{./report_pic/u_suiromap.png} \caption{uMapで作成した水路マップ} \label{u_suiro_map} \end{center} \end{figure} \begin{figure}[h] \begin{center} \includegraphics[width=60mm,clip]{./report_pic/n_suiromap.png} \caption{危険箇所通知ナビ} \label{n_suiro_map} \end{center} \end{figure} \subsection{水路マップ作成の意義} 多雪地域の積雪は建築物や公共交通機関の機能に多大な影響を与える~\cite{1998}.それらの雪害からの被害を抑えるために除雪作業は必須となる.また,大雪により死亡するケースはその年の積雪量に比例して起きている~\cite{国土交通省}.この死亡事故の多くは除雪中の事故である.除雪中の事故は屋根からの雪降ろしや水 路への転落など多岐に渡る.そのため首相官邸では,複数人での除雪作業を心 掛けるように注意を促し,「命を守る除雪中の事故防止10箇条」を提唱してい る~\cite{内閣府}.しかし,除雪を必要とする地域では過疎化が進行しているた め,複数人での除雪作業が困難な状態である.それにより高齢者自らが除雪し,自宅前の側溝に転落し,死亡した事例がある~\cite{news_NHK}.日向地区でも同様に転落事故が起きている~\cite{nikko}. その一方で地域内では事故が起きた位置について充分な共有がされていない~\cite{numa}.日向地区においても事故が起きた場所の共有が十分に行われていないことが同地域での聞き取り調査で明らかになっている~\cite{nouhau}.また,作成したマップを各世帯に配布するだけではマップの認知度を広めることには繋がりにくい~\cite{hzrd}.そのためWebページで公開し,いつでも閲覧できるGISでマップを作成することで共有不足を改善することを目指した. \subsection{水路マップ作成について} マップの作成は本学にて平成29年度に開講された「地域コミュニティにおける「防災」の仕組みづくり」(以下,プロジェクト)にて学生が主体となり行った.マップ上には聞き取り調査で得た情報や事前に作成した水路マップを参考にした情報を表示している.水路の情報をラインで表し,除雪時の危険箇所をマーカーで表す.マーカーの情報には危険箇所の設定理由と危険箇所の写真を表示している(図\ref{suiro_pop}). このマップではマーカーと水路の種類は色と形で分けている.マーカーの種類は除雪時の危険箇所となる箇所の他,水に関わる施設や湧き水など水に関するものも含めている.水路の種類は除雪時に出た雪を捨てる流雪溝の他,下水などを流す水路などに分けて分類している.また,マーカーの情報に写真があるものは星マークのアイコンがあり,普段蓋が空いている水路は破線で表記している. \begin{figure}[h] \begin{center} \includegraphics[width=60mm,clip]{./report_pic/hyoji_pop.png} \caption{マーカークリックでその位置で起きたことを表示する} \label{suiro_pop} \end{center} \end{figure} \subsection{通知ナビの作成と使用} 水路マップで得た情報を元に危険箇所や水路に近づくと注意を促すWebアプリケーション「危険箇所通知ナビ」の作成を行った.通知ナビではスマートフォンのGPS機能とバイブレーションを使用することでシステム使用者の位置情報を取得し,危険箇所と蓋のない水路に近づくと通知する機能を持つ(図\ref{dengerzone}).\par \begin{figure}[h] \begin{center} \includegraphics[width=60mm,clip]{./report_pic/kiken.png} \caption{危険箇所通知ナビを使用した様子} \label{dengerzone} \end{center} \end{figure} この通知ナビは,実際に日向地区で行われた除雪ボランティア活動にて使用した.危険箇所に近付くと画面上で注意を促すだけでなく,バイブレーションによって防寒具の上からでも確認することができた. \subsection{これらの課題} 水路マップの活動で出てきた課題についてまとめる. \begin{itemize} \setlength{\parindent}{1zw} \item マップ作成者の負担 \par 今回講義にてuMapを使用し,マップを作成したが短期間での作成で情報が不足しているため追加を行っていく必要がある.しかし,地域の過疎化が課題となっている日向地区ではマップ作成の後継者となる方が少ない.マップ上に反映させる動画,写真等の撮影も含めるとかなりの負担となるためマップ作成の簡易化が求められている. \item 見辛さの問題 \par マップ上に表示されている情報の種類が多く見辛いという意見が出た.この情報には水路や転落事故には直接関係ないものも含まれておりデータの混在も見辛いマップとなる要因になっている.また,ポップアップで表示される内容が見辛いなどの意見も出ているためアクセシビリティの観点にも課題が見受けられた. \item 偏った視点での提供 \par 今回水路を危険箇所として扱っているが地域と水路の関わり方の歴史的な背景に支障をきたす恐れがある.除雪時の雪を捨てる排雪溝としての役割はもちろん火事の消火活動にも使われているとのことだった.日向地区に水路が多いのは過去に起きた大規模な火事が背景にもある.こういった別視点からの情報を冬以外の季節で確認できるようなマップ作りが必要である. \end{itemize} \section{おらほの町の『思い』伝承マップの提案} 本研究で作成する地図は,ストーリーマップ形式で表示する.ストーリーマップは,地域の歴史や文化について動画や写真を用いて伝える手法として使われている.地域記憶や作成者の『思い』を伝承していくためのマップ作成ができ,閲覧者に興味をもたせるための手法として使用する. 上記に示した課題を解決し,マップ上に置かれた事物情報を鮮明にする.本研究で作成した「おらほの町の『思い』伝承マップ(以下,伝承マップ)」を地域へ還元するための手法及び実用例を以下に示す. \subsection{手法} 事物データの作成やマップでの表示方法について記す. \subsubsection{事物データの作成方法} マップに使用する地点情報を管理し,GeoJSON形式でレイヤを生成するマップ作成者を支援するシステムである(図\ref{mk_map}).マップ作成者側が地点情報に付与したい文章,写真,動画を添付することで事物データの作成及び情報の追加を行うことができる. \begin{figure}[h] \begin{center} \includegraphics[width=60mm,clip]{./report_pic/sys.pdf} \caption{事物データ作成の概念図} \label{mk_map} \end{center} \end{figure} \par \subsubsection{マップ上での表示} 上記で作成した事物データをマップ上に表示させる.背景地図はOSMを使用し,マップの表示にはLeaflet.js~\cite{Leaf}を使用している.また,上記の課題において見辛さを解消するためLeaflet.jsのpluginのleaflet-sidebarとJavaScriptのライブラリであるjQueryのcolorbox.jsを利用している(図\ref{storymap}). \begin{figure}[h] \begin{center} \includegraphics[width=60mm,clip]{./report_pic/storymaps.pdf} \caption{伝承マップ概念図} \label{storymap} \end{center} \end{figure} \par このシステムではマップ上に表示しているマーカーをクリックするとその場所について伝える動画がモーダルウィンドウ上で再生される(図\ref{do_movie}). \begin{figure}[h] \begin{center} \includegraphics[width=60mm,clip]{./report_pic/do_movie.png} \caption{大雨時の川の動画を再生した様子} \label{do_movie} \end{center} \end{figure} また,再生終了後モーダルウィンドウを閉じるとクリックしたマーカーをズームすることでどこに関する動画だったのかを示し,場所に関する文章と写真をサイドバーに表示する(図\ref{rain_s}). 大きい文字での表示が可能なため文字が読みにくい方への対応も可能になる. \begin{figure}[h] \begin{center} \includegraphics[width=60mm,clip]{./report_pic/side_ward.png} \caption{サイドバーでの情報表示} \label{rain_s} \end{center} \end{figure} \subsection{実用例} 伝承マップで使っているシステムを平成30年度山形県酒田市八幡地域で行われた防災楽習フェスにて「大雨災害マップ」として公開している(図\ref{rain})~\cite{oosawa}. 動画の上映も同時に行っていたが動画のみの上映ではわかりにくい動画の撮影位置やその位置に対する情報がわかりやすいと評価をもらった.また,デスクトップ上での表示だけではなくマルチディスプレイの大画面でも表示することでスマートフォンを持たない人にも見せることができた.「水路マップ」のような共有を目的とする取り組みにマップは有効であると言える. \begin{figure}[h] \begin{center} \includegraphics[width=60mm,clip]{./report_pic/oosawa.png} \caption{大雨災害マップ} \label{rain} \end{center} \end{figure} \section{結論} 伝承マップは「大雨災害マップ」のような災害を伝えていく取り組みにも利用できた.起こった事象に位置情報を付加することで「どこで」起きたことなのかを効果的に伝えることができるとわかった. \section{今後の展望} これまで取り組んできた水路マップや大雨災害マップのように地域に還元し,各地域で使えるようなシステムを作ることを目指す.また,今回公開したマップで実現していない「偏った視点の提供」について水路マップでは冬期間以外は「水資源マップ」にするような時間によって表示する内容を変える機能の作成を行う. \section*{謝辞} 本研究は,平成30年度私立大学研究ブランディング事業タイプA「日本遺産を誇る 山形県庄内地方を基盤とした地域文化とIT技術の融合による伝承環境研究の展開」 の助成を受けた成果である. \bibliographystyle{ipsjunsrt} \bibliography{is} \end{document}