diff --git a/ronbunsyu1.tex b/ronbunsyu1.tex index 5c905a4..e30be6d 100644 --- a/ronbunsyu1.tex +++ b/ronbunsyu1.tex @@ -1,106 +1,176 @@ -%#DVIPDF dvipdfmx -f index.txt -\documentclass[b5j,11pt]{jsarticle} -\setlength{\topmargin}{-1cm} -\addtolength{\textheight}{4cm} -\addtolength{\textwidth}{2cm} -\addtolength{\oddsidemargin}{-1cm} +%#DVIPDF dvipdfmx -f index.txt -p a5 +% (replace-string "、" ",") +\documentclass[a5j,10pt]{jsarticle} +% \title{} \title{プログラミング教室の運営と手引の作成} -\addtolength{\evensidemargin}{-1cm} -%\pagestyle{empty} -\author{廣瀬研究室 4年 C1160497 亀谷千香子} -\date{令和2年1月22日} +\author{ 亀谷千香子\thanks{c116049@h.koeki-u.ac.jp}\\ + 広瀬雄二\thanks{yuuji@koeki-u.ac.jp} +} +\date {} +%\setlength{\topmargin}{-1cm} +%\addtolength{\textheight}{4cm} +%\addtolength{\textwidth}{2cm} +%\addtolength{\oddsidemargin}{-1cm} +\addtolength{\topmargin}{-1cm} % 紙上端1インチからのマージン +\addtolength{\oddsidemargin}{0cm} +\addtolength{\evensidemargin}{0cm} +\addtolength{\textwidth}{1zw} +\setlength{\itemsep}{0.5ex} +\setlength{\textheight}{18cm} + +% \addtolength{\evensidemargin}{-1cm} +\pagestyle{empty} \usepackage{url} % required for `\url' (yatex added) \usepackage[dvipdfmx]{graphicx} %\usepackage[sectionbib]{chapterbib} \usepackage{ascmac} -\usepackage{longtable} -\usepackage{geometry} +% \usepackage{longtable} +% \usepackage{geometry} \usepackage{tabularx} \begin{document} \maketitle +%\begin{center} +% \LARGE プログラミング教室の運営と手引の作成\\ +%\end{center} +%\begin{flushright} +%廣瀬研究室 4年 C1160497 +%\end{flushright} - -\maketitle +%\maketitle \begin{center} {\bfseries 概要} \end{center} -2020年度に小学生のプログラミング教育が必修化になる。文部科学省の小学校プログラミング教育の手引では、プログラミング教育で身につけたい力として「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」が上げられている。 -実際に本格的なRubyプログラミングを学ぶ小学生はプログラミングに対してどのようなイメージ・興味があるのか知り、5回の授業を通して何を学んだのか調査していく。調査方法として今年度の6月と8月に行う小学5、6年生が対象のRubyを用いたプログラミング教室「Rubyてらこった」の活動に参加した小学生へ初回の授業と最後の授業にアンケートを行う。また、Ruby等を用いた小学生向けのプログラミング教室を運営をするための事前の準備、教える方法などまとめた手引を作成する。 +2020年度に小学生のプログラミング教育が必修化される。文部科学省の小学校プ +ログラミング教育の手引では,プログラミング教育で身につけたい力として「知 +識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」 +が挙げられている。東北公益文科大学では,2018年度2019年度に小学5,6年生を +対象とした本格的なRubyプログラミング教室を開催した。それを通じ小学生がプ +ログラミングミングに対してどのようなイメージ・興味があるのかについてアン +ケートを用い調査した。また,その実績をもとにRuby等を用いた小学生向けのプ +ログラミング教室を運営をするための事前の準備,教える方法などをまとめた手 +引を作成した。 - -%\thispagestyle{empty}_ +%\thispagestyle{empty} \section{背景} -2020年に小学生のプログラミング教育が必修化となり、それぞれの科目をプログラミングを使い学ぶ。また、小学校だけのプログラミングだけではなく、外部のプログラミング教室の開催も年々増加している。 +%2020年に小学生のプログラミング教育が必修化され,総合学習の一つとして様々 +%な科目でプログラミングを題材とすることが見込まれている。 +%また,小学校だけ +%のプログラミングだけではなく,外部のプログラミング教室の開催も年々増加し +%ている。 + +情報化社会への対応は教育課程にも影響を与える。2020年度に予定されている小 +学校の課程におけるプログラミングの導入など,年少期教育における動向につい +て簡単に示す。 + \subsection{小学生プログラミング教育必修化}\label{a} -普段の生活の中で身近な家電、自動車にはコンピュータが内蔵されている。そのコンピュータを動かしているのはプログラムであるため、プログラム仕組みを理解し情報を適切に活用、選択し問題を解決していくことが重要と考えられている。文部科学省は、2020年度からのプログラミング教育を通して身につけたい力として、「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」を挙げている\cite{monbu}。 +普段の生活の中で身近な家電,自動車にはコンピュータが内蔵されている。その +コンピュータを動かしているのはプログラムであるため,プログラム仕組みを理 +解し情報を適切に活用,選択し問題を解決していくことが重要と考えられている。 +このため文部科学省は,2020年度からの小学校の教育にプログラミングを導入す +ることを打ち出した。これは,プログラミングそのものの技術力向上を目指した +ものではない。文科省ではプログラミング教育を通して身につけたい力として, +以下の3つの力を挙げている\cite{monbu}。 \begin{description} \item[知識及び技能]\mbox{}\\ -生活でコンピュータが活用されていくことや、問題の解決には必要な手順があること - \item[思考力、判断力、表現力等]\mbox{}\\ +生活でコンピュータが活用されていくことや,問題の解決には必要な手順があること + \item[思考力,判断力,表現力等]\mbox{}\\ 発達の段階に即してプログラミング的思考力を育成すること - \item[学びに向かう力、人間性等]\mbox{}\\ -発達段階に即して、コンピュータの働き、よりよい人生や社会づくりに生かそうとする態度を涵養すること + \item[学びに向かう力,人間性等]\mbox{}\\ +発達段階に即して,コンピュータの働き,よりよい人生や社会づくりに生かそうとする態度を涵養すること \end{description} -\subsection{小学生の発達段階}\label{dankai} -学習指導要領では、科目で学ぶ内容に合せプログラミングを行うが、プログラミング教育は、小学生の発達段階において難易度が高いのではないかと考える。ピアジェが仮説化する各発達段階での子どもの思考特徴では7〜12歳(小学校生)は、具体的操作段階である\cite{sinri}。その段階では、具体物を扱う限りにおいては論理的操作が可能だか、科学的な問題や論理的 -変換のようにあらゆる可能な組み合わせを考えねばならぬ問題には困難を示すとある。しかし、12歳以上になる と形式的操作段階となり、経験的事実に基づくだけではなく、仮説による論理的操作や、命題間の論理的関係の理解が可能である。 -\begin{table}[h] - \begin{center} -\small - \caption{ピアジェが仮説化する各発達段階での子どもの思考特徴\cite{sinri} より引用} - - \begin{tabular}{|l|l|l|} \hline - 発達段階 &年齢の範囲&達成可能な典型と限界\\ \hline \hline - 具体的操作段階 &7〜12歳&具体物を扱う限りにおいては論理的操作が可能になる。ものや事象の静的\\ - & &な状態だけでなく変換の状態をも表象可能、外見的な見えに左右されず保\\ - & &存問題や系列化やクラス化の問題解決が可能、だが科学的な問題や論理的\\ - & &変換のようにあらゆる可能な組み合わせを考えねばならぬ問題には困難を\\ - & &示す。\\ \hline - 形式的操作段階 & 12歳〜 & 経験的事実に基づくだけではなく、仮説による論理的操作や、命題間の論\\ - & &理的関係の理解が可能である。より抽象的で複雑な世界についての理解が\\ - & &進み、たとえば、エネルギーの保存や化学的合成に関するような抽象的概\\ - & &念やエネルギーの保存や化学的合成に関するような抽象的概念や知識が獲\\ - & &得される。\\ \hline - \end{tabular} - - \label{dan} - \end{center} -\end{table} - - -\subsection{プログラミング教室開催状況} -小学校以外にもプログラミングを学ぶことのできる教室がある。外部のプログラミング教室は1999年から2014年以降までを比べてみると、年々増加していることが分かる(図\ref{hikaku})。2013年以降からはプログラミング教室を開催している団体が急増している。 -\begin{figure}[h] +% \subsection{プログラミング教室開催状況} +このような流れに乗る形で,小学校以外,民間のプログラミング教室等の開催状 +況に変化が現れている。外部のプログラミング教室は1999年から2014年以降まで +を比べてみると,年々増加していることが分かる(図\ref{hikaku})。2013年以降 +からはプログラミング教室を開催している団体が急増している。 +\begin{figure}[tp] \begin{center} - - - \includegraphics[width=6cm]{kaisai.pdf} \caption{プログラミング教室始時期\cite{soumu} 図5-3より引用} \label{hikaku} \end{center} \end{figure} -\section{目的}\label{mokuteki} -本研究は、小学生がプログラミングに対してどのようなイメージ、興味があるのか、プログラミングの授業を通して背景で述べている力が身についたと小学生自身が実感することができるのかを調査していくことを目的とする。また、はじめてプログラミング教室を運営する人を対象にした手引を作成する。 +\subsection{小学生の発達段階}\label{dankai} +学習指導要領では,科目で学ぶ内容に合せプログラミングを行うとのことだが, +プログラミング教育は,小学生の発達段階において難易度が高いのではないだろ +うか。表~\ref{dan}に示したとおり,ピアジェが仮説化する各発達段階での子ど +もの思考特徴では7〜12歳(小学校生)は具体的操作段階である\cite{sinri}。そ +の段階では,具体物を扱う限りにおいては論理的操作が可能だが,科学的な問題 +や論理的変換のようにあらゆる可能な組み合わせを考えねばならない問題には困 +難を示すとある。しかし,12歳以上になると形式的操作段階となり,経験的事実 +に基づくだけではなく,仮説による論理的操作や,命題間の論理的関係の理解が +可能である。 +\begin{table}[tp] + \begin{center} +\small + \caption{ピアジェが仮説化する各発達段階での子どもの思考特徴\cite{sinri} より引用} + \label{dan} -\section{プログラミングの意識調査方法} -小学生向けのプログラミング教室を運営し、参加した小学生にアンケートを行う方法である。 -\subsection{Rubyてらこった} -%Rubyてらこった、2018年度から大学のブランディング事業の一つでプログラミング言語のRubyを用いたプログラミング教室\cite{terakotta}。目的は、庄内地方を中心とした地域の若者達に情報技術を教え、情報社会を生き抜くために必要な力を身につけていくことである。Rubyてらこったの対象は小学5、6年生である。その理由としては、キーボードの操作の関係からアルファベットを習い終わっていること、また、小学生のうちから本格的なプログラミングを学ぶ機会を提供したいと考えているためである。 - -本学では、2018年度から大学のブランディング事業の一つでプログラミング言語のRubyを用いた小学生向けプログラミング教室「Rubyてらこった」を行っている\cite{terakotta}。目的は、庄内地方を中心とした地域の若者達に情報技術を教え、情報社会を生き抜くために必要な力を身につけていくことである。 -\subsection{指導内容} -1回目から5回目までの学習する内容は、以下の通りである。 -\begin{table*}[h] + \begin{tabular}{|l|l|p{0.5\columnwidth}|} \hline + 発達段階 &年齢の範囲&達成可能な典型と限界\\ \hline \hline + 具体的操作段階 &7〜12歳&具体物を扱う限りにおいては論理的操作が可能 + になる。ものや事象の静的な状態だけでなく変換の状態をも表象 + 可能,外見的な見えに左右されず保存問題や系列化やクラス化の + 問題解決が可能,だが科学的な問題や論理的変換のようにあらゆ + る可能な組み合わせを考えねばならぬ問題には困難を示す。 + \\ \hline + 形式的操作段階 & 12歳〜 & 経験的事実に基づくだけではなく,仮説に + よる論理的操作や,命題間の論理的関係の理解が可能である。よ + り抽象的で複雑な世界についての理解が進み,たとえば,エネル + ギーの保存や化学的合成に関するような抽象的概念やエネルギー + の保存や化学的合成に関するような抽象的概念や知識が獲得され + る。\\ \hline + \end{tabular} + + \end{center} +\end{table} + +これに従うのであれば12歳前後,すなわち小学校6年生前後が形式的操作の発達 +する時期であるため,抽象的なままでの本格的プログラミングの概念を理解する +のに適した時期であるのではないかと考えた。 + +\subsection{Rubyてらこった} +%Rubyてらこった,2018年度から大学のブランディング事業の一つでプログラミング言語のRubyを用いたプログラミング教室\cite{terakotta}。目的は,庄内地方を中心とした地域の若者達に情報技術を教え,情報社会を生き抜くために必要な力を身につけていくことである。Rubyてらこったの対象は小学5,6年生である。その理由としては,キーボードの操作の関係からアルファベットを習い終わっていること,また,小学生のうちから本格的なプログラミングを学ぶ機会を提供したいと考えているためである。 + + + +東北公益文科大学(以下 本学)では,2018年度から大学のブランディング事業の +一つでプログラミング言語のRubyを用いた小学校5,6年生向けプログラミング教 +室「Rubyてらこった」を行っている\cite{terakotta}。目的は,庄内地方を中心 +とした地域の若者達に情報技術を教え,情報社会を生き抜くために必要な力を身 +につけていくことである。 +\subsection{指導内容} +Rubyてらこったは全5回の授業として設計した(表\ref{studyitems})。5回目の授 +業では,それまでに習った項目を利用し,ある程度本人が楽しめるものを作れる +ようになることを考慮し,ゲーム的な要素を持つ作品が作れる技能をまず想定し +た。そこから逆算し,Ruby言語に備わるいくつかの項目をピックアップした。表 +\ref{methods}がRubyてらこったで取り扱うRubyのメソッドで,これらを適切に +使えるようになるための概念についても順序よく説明する形で教材を作成した。 +\begin{table*}[tp] + \begin{center} + \small + \caption{授業内容} \label{studyitems} + \begin{tabular}{|l|l|} \hline + 回数 & 内容 \\ \hline \hline + 1回目 & 基本操作 画面出力 自己紹介プログラム \\ + 2回目 & ループ 繰り返し処理のプログラム \\ + 3回目 & 配列 データ処理のプログラム \\ + 4回目 & 条件分岐 条件のあるプログラム \\ + 5回目 & まとめ 習ったことを応用してプログラムを作成 \\ \hline + \end{tabular} + \end{center} +\end{table*} + +\begin{table*}[t] \small \begin{center} -\caption{使用するメソッド} - +\caption{Rubyてらこったで取り扱うメソッド} +\label{methods} \begin{tabular}{|c|c|c|c|} \hline \multicolumn{4}{|l|}{出力メソッド (print,printf,puts)}\\ \hline @@ -111,7 +181,7 @@ \multicolumn{4}{|l|}{プログラムを作るときに必要と判断した}\\\hline \multicolumn{4}{|l|}{配列及び乱数(srand,rand)}\\ \hline \multicolumn{4}{|l|}{2つを組み合わせてクイズ問題を用意して乱数で選ばせ}\\ - \multicolumn{4}{|l|}{たり、ジャンケンの手の内をランダムに出したりする}\\ + \multicolumn{4}{|l|}{たり,ジャンケンの手の内をランダムに出したりする}\\ \multicolumn{4}{|l|}{ために使うので必要と判断した}\\\hline \multicolumn{4}{|l|}{sleep関数(sleep)}\\ \hline \multicolumn{4}{|l|}{プログラムを時間を指定して一時停止することができるの}\\ @@ -120,89 +190,95 @@ \multicolumn{4}{|l|}{クイズの結果の判定や条件で繰り返しを行うため}\\ \multicolumn{4}{|l|}{必要であると判断した}\\\hline \end{tabular} -\label{kousatu} \end{center} \end{table*} -\begin{table*}[h] - \begin{center} - \small - \caption{授業内容} - \begin{tabular}{|l|l|} \hline - 回数 & 内容 \\ \hline \hline - 1回目 & 基本操作 画面出力 自己紹介プログラム \\ - 2回目 & ループ 繰り返し処理のプログラム \\ - 3回目 & 配列 データ処理のプログラム \\ - 4回目 & 条件分岐 条件のあるプログラム \\ - 5回目 & まとめ 習ったことを応用してプログラムを作成 \\ \hline - \end{tabular} - - \label{aa} - \end{center} -\end{table*} -\subsection{小学生に身につけてほしい力} -\ref{a}で述べたように、小学生のプログラミング教育で身につけたい力は「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」である。 -その3つの力に追加してRubyてらこったで身につけてほしい力は「工夫する力」、「伝える力」である。具体的には以下の通りである。 +\subsection{小学生に身につけてほしい力}\label{skills} +\ref{a}で述べたように,小学生のプログラミング教育で身につけたい力は「知 +識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」 +である。その3つの力に追加してRubyてらこったで身につけてほしい力として +「工夫する力」,「伝える力」を設定した。 \begin{description} - \item[工夫する力]\mbox{}\\ -授業で使うサンプルのプログラムを自分で考えて、工夫をして、他の人とは違うプログラムを作れるようになること +授業で使うサンプルのプログラムを自分で考えて,工夫をして,他の人とは違うプログラムを作れるようになること \item[伝える力]\mbox{}\\ -伝える力としては、2つの意味がある。1つ目は、自分の作成したプログラムの発表を通して工夫し点、頑張った点など伝えられるようになれること +伝える力としては,2つの意味がある。1つ目は,自分の作成したプログラムの発表を通して工夫し点,頑張った点など伝えられるようになれること -2つ目は、周りの人が作成したプログラムの発表を聞いて感想など伝えられるようになること +2つ目は,周りの人が作成したプログラムの発表を聞いて感想など伝えられるようになること \end{description} -\section{アンケートについて} -参加した小学生に1回目の授業の事前、毎回の授業後、事後にアンケートを実施した。内容は以下の通りである(表\ref{tyousa})。 - \begin{table*}[h] + +\section{目的}\label{mokuteki} +本研究は,小学生がプログラミングに対してどのようなイメージ,興味があるの +か,プログラミングの授業を通して様々な力が身についたと小学生自身が実感す +ることができるのかを調査していくことを目的とする。また,初めてプログラミ +ング教室を運営する人を対象にした手引を作成する。 + + +\section{プログラミングの意識調査} +小学生からプログラミングに関する意識について取得したアンケートについて示す。 + +\subsection{質問項目} +本研究ではRubyてらこったに参加した小学生に +\begin{itemize} + \item 1回目の授業の事前 + \item 毎回の授業後 + \item 最終回終了後 +\end{itemize} +の各タイミングでアンケートを実施した。 +質問内容は習熟度合いに応じてその都度違うものを用意した(表\ref{tyousa})。 + + \begin{table*}[tp] \begin{center} \small - \caption{アンケート} - + \caption{アンケートの質問項目} \begin{tabular}{|l|l|} \hline 種類 & 内容 \\ \hline \hline - 事前 & 機械操作、プログラミングについて、普段の学習 \\ - 授業 & 授業で楽しかったこと、授業で難しかったこと\\ - 事後 & 授業について、プログラミングについて、普段の学習 \\ \hline + 事前 & 機械操作,プログラミングについて,普段の学習 \\ + 授業 & 授業で楽しかったこと,授業で難しかったこと\\ + 事後 & 授業について,プログラミングについて,普段の学習 \\ \hline \end{tabular} - \label{tyousa} \end{center} \end{table*} -\section{実施結果について} -2019年6月、7月のRubyてらこったに参加した小学生のアンケートの結果は以下の通りである。 +\subsection{アンケートの結果} +2019年6月,7月のRubyてらこったに参加した小学生のアンケートの結果は以下の +通りとなった。 \begin{itemize} \item 事前アンケート結果 -機械操作については、スマートフォンを普段使用している人が多かった。プログラミング教室参加理由は、プログラミングに興味があって参加した人が半数以上だった。 -プログラミングのイメージは、楽しそうというイメージもあるが、難しそうというイメージをもっている参加者もいた。 +機械操作については,スマートフォンを普段使用している人が多かった。プログラミング教室参加理由は,プログラミングに興味があって参加した人が半数以上だった。 +プログラミングのイメージは,楽しそうというイメージもあるが,難しそうというイメージをもっている参加者もいた。 \item 毎回の授業アンケート結果 -毎回の授業で楽しかったことは、機械操作、作成したプログラム発表、プログラムを改造すること、大学生と話したことであった。難しかったことは、機械操作、条件分岐、ループの考え方などであった。 +毎回の授業で楽しかったことは,機械操作,作成したプログラム発表,プログラムを改造すること,大学生と話したことであった。難しかったことは,機械操作,条件分岐,ループの考え方などであった。 \item 事後アンケート結果 -授業については、とても分かりやすい、プログラミングがとても楽しかったという回答が多かった。しかし、プログラミングが難しかったと感じた参加者もいた。 -プログラミングを通して筋道をたてて考える力が身についたと実感している参加者が多かった。挑戦してみたいことでは、もっと難しいプログラムを作る、家でもプログラミングをするなどの回答があった。 +授業については,とても分かりやすい,プログラミングがとても楽しかったという回答が多かった。しかし,プログラミングが難しかったと感じた参加者もいた。 +プログラミングを通して筋道をたてて考える力が身についたと実感している参加者が多かった。挑戦してみたいことでは,もっと難しいプログラムを作る,家でもプログラミングをするなどの回答があった。 \end{itemize} -\section{考察} +\section{アンケートからの考察} -Rubyてらこったで参加した小学生に身につけてほしい力についてアンケート結果、授業の様子、作成したプログラムから考察を述べる。 - +Rubyてらこったで参加した小学生に身につけてほしい力についてアンケート結果, +授業の様子,彼らが作成したプログラムから受け取り方や習熟できたかについて +考察する。 + \subsection{プログラミングについて} -プログラミングのイメージは楽しそうというイメージがある。しかし、難しそうというイメージもあった。授業をしてまたプログラミングをしてみたいという回答が多かった。実際にプログラミングを学んでみて難しかったという回答があった。内容が難しく感じたのは、\ref{dankai}で述べたように発達段階の要因があるのではないかと考える。また、内容が難しく感じたという理由だけではなく、キーボード操作も難しく感じた要因ではないかと考える。 +プログラミングのイメージは楽しそうというイメージがある。しかし,難しそうというイメージもあった。授業をしてまたプログラミングをしてみたいという回答が多かった。実際にプログラミングを学んでみて難しかったという回答があった。内容が難しく感じたのは,\ref{dankai}で述べたように発達段階の要因があるのではないかと考える。また,内容が難しく感じたという理由だけではなく,キーボード操作も難しく感じた要因ではないかと考える。 \subsection{論理的思考について} アンケートから筋道を立てて考える力が身についたと実感している小学生が多いという結果になった。5回目の授業で今まで学んだものを使い作成するときにもどのようにしたら動くのかを考えて作成している小学生が多かった。 \subsection{身につけたい力について} -Rubyてらこったを通して身につけさせたい力の考察は以下の通りである(表\ref{kousatu})。 +文科省がプログラミングを通じて獲得を期待している力,ならびに本学Rubyてら +こったを通じて付けて欲しいと考えている力(\ref{skills}節)について, +それぞれまとめたものを表\ref{kousatu}に示す。 \begin{table*}[h] \small @@ -213,46 +289,54 @@ \hline \multicolumn{4}{|l|}{知識及び技能}\\ \hline \multicolumn{4}{|l|}{5回目の授業で自由に作成したプログラムを見ると授業で学ん}\\ - \multicolumn{4}{|l|}{だことを理解し、工夫してプログラムを作成していた。}\\ \hline + \multicolumn{4}{|l|}{だことを理解し,工夫してプログラムを作成していた。}\\ \hline -\multicolumn{4}{|l|}{思考力、判断力、表現力等}\\ \hline - \multicolumn{4}{|l|}{毎回の授業でプログラムを作成するときに、分からないことが}\\ - \multicolumn{4}{|l|}{あると教科書を見て考えたり、大学生に質問をしたりしていた。}\\ - \multicolumn{4}{|l|}{また、もっとプログラムを良くするにはどのメソッドを使えば}\\ -\multicolumn{4}{|l|}{良いのか判断していた。そのことから、思考力、判断力、表現}\\ +\multicolumn{4}{|l|}{思考力,判断力,表現力等}\\ \hline + \multicolumn{4}{|l|}{毎回の授業でプログラムを作成するときに,分からないことが}\\ + \multicolumn{4}{|l|}{あると教科書を見て考えたり,大学生に質問をしたりしていた。}\\ + \multicolumn{4}{|l|}{また,もっとプログラムを良くするにはどのメソッドを使えば}\\ +\multicolumn{4}{|l|}{良いのか判断していた。そのことから,思考力,判断力,表現}\\ \multicolumn{4}{|l|}{力等の力が身についたと言える。}\\\hline -\multicolumn{4}{|l|}{学びに向かう力、人間性等}\\ \hline - \multicolumn{4}{|l|}{プログラムを集中して作成したり、授業中に分からない所が}\\ +\multicolumn{4}{|l|}{学びに向かう力,人間性等}\\ \hline + \multicolumn{4}{|l|}{プログラムを集中して作成したり,授業中に分からない所が}\\ \multicolumn{4}{|l|}{あった時に周りの大学生に質問をしたりして解決をしていた。}\\ - \multicolumn{4}{|l|}{また、難しい内容の部分でも積極的に学ぼうとする姿勢があっ}\\ - \multicolumn{4}{|l|}{たことから、学びに向かう力・人間性等が身についたと言える。}\\ \hline + \multicolumn{4}{|l|}{また,難しい内容の部分でも積極的に学ぼうとする姿勢があっ}\\ + \multicolumn{4}{|l|}{たことから,学びに向かう力・人間性等が身についたと言える。}\\ \hline \multicolumn{4}{|l|}{工夫する力}\\ \hline \multicolumn{4}{|l|}{毎回の授業でサンプルのプログラムを自分で考えて作成して}\\ \multicolumn{4}{|l|}{いた。5回目の授業のオリジナルのプログラムを作成する時に}\\ - \multicolumn{4}{|l|}{前に作成したものを改良して作成ができていたので、身につい}\\ + \multicolumn{4}{|l|}{前に作成したものを改良して作成ができていたので,身につい}\\ \multicolumn{4}{|l|}{たと言える。}\\\hline \multicolumn{4}{|l|}{伝える力}\\ \hline \multicolumn{4}{|l|}{自分が作成したプログラムの工夫した点や頑張ったところなど}\\ - \multicolumn{4}{|l|}{発表することができていた。また、他の人が作成したプログ}\\ + \multicolumn{4}{|l|}{発表することができていた。また,他の人が作成したプログ}\\ \multicolumn{4}{|l|}{ラムに対しての感想やどうやったらこの動きになるのかなど}\\ - \multicolumn{4}{|l|}{質問をお互いにしていたので、力が身についたと言える。}\\\hline + \multicolumn{4}{|l|}{質問をお互いにしていたので,力が身についたと言える。}\\\hline \end{tabular} \label{kousatu} \end{center} \end{table*} -\subsection{t検定の結果}\label{tkekka} -同じ人を2回測定するので対応のあるt検定を用いた。アンケートの結果を数値化し分析を行った。プログラミングについての仮説は、プログラミングを実際に行うとプログラミングはイメージよりも楽しく、難くはないという結果がでると考えた。また、プログラミングを通して学校の勉強が好きになり難しく感じなくなるという仮説を立てた。比較項目と結果は以下の4つである(表\ref{t})。 +\subsection{受講前後のイメージ変化の検証}\label{tkekka} +Rubyてらこったの経験を通じて,プログラミングや勉強に対して好ましい印象の +変化は見られたのかについて検定を行なった。 +アンケートの回答を数値化し,開催前後でそれらを比較する形で分析を行った。 +同じ児童について追跡して2回測定するので対応のあるt検定を用いた。 -\begin{table*}[h] +プログラミング教室受講前と後の変化についての仮説は,プログラミングを実際 +に行うとプログラミングはイメージよりも楽しく,難くはないという結果が出る +と考えた。また,プログラミングを通して学校の勉強が好きになり難しく感じな +くなるという仮説を立てた。比較項目と結果は以下の4つである(表\ref{t})。有 +意傾向の結果が出たのは,勉強が難しいという項目だけであった。 -\begin{center} -\caption{t検定の結果} + +\begin{table*}[tp] +\centering \caption{t検定の結果} \begin{tabular}{|p{0.4\columnwidth}|p{0.55\columnwidth}|} \hline @@ -264,45 +348,82 @@ %\label{t} \end{tabular} \label{t} -\end{center} \end{table*} -有意傾向の結果がでたのは、勉強が難しいという項目だけであった。 -小学校の学習内容よりも今回のプログラミング教室の内容が難しく感じたためこのような結果がでたと考える。また、プログラミング教室の開催期間が夏休み中であり、学校で授業をしていない期間であるため、実感をもって答えることができなかったと考えられる。 +今回のプログラミング教室は希望者を募ったものであり,プログラミング +に対する元々の期待感が高い小学生によるものである。このため,「イメージが +向上した」という結果が出にくい条件であるとも言える。裏を返せば,期待感を +裏切らない結果であったことになる。 + +また,今回「小学校の学習内容の難易度」のみ開催後の数値変化に有意差が見ら +れた。これにはいくつかの要素が考えられる。たとえば,今回のプログラミング +教室では可能なところでは学校の勉強と結び付けて説明した部分があり,その点 +について難しさを想起させた可能性が考えられる。また,プログラミングを遊び +のように捉えて反復して理解している様子が見られたが,そうした理解と学校で +の学習を比較して,受講前と異なる回答をした可能性も考えられる。いずれにせ +よプログラミング教室の開催期間が夏休み中であり,学校で授業をしていない期 +間であるため,実感をもって答えることができなかった可能性もあるため,この +点に関してはさらなる検討が必要であると考える。 -\section{手引について} -Webサイトにてプログラミング教室を開催するための方法が公開されている\cite{web1}\cite{web2}\cite{web3}。公開されて -いる情報はプログラミング教育の目的、使用教材、所要時間などである。しかし、その情報では足りない部分があると考えた。例えば、小学生にプログラミングを教える体制、教える方法など具体的な内容などである。そのため、実際にプログラミング教室を開催する企画を立ててから授業を行うための手引が必要であると考えた。そこで、2018年度、2019年度のRubyてらこったの活動を踏まえ手引を作成した。手引は、企画の立て方、運営方法、準備期間などをまとめた。構成は以下の通りである。 -\subsection{手引の構成} -はじめてプログラミング教室を企画、運営する人にも分かりやすい手引を作成した。 + \section{手引書について} +表\ref{hikaku}とも関連するが,プログラミング教室開催の必要性は高まって +いくことが予想できる。こうした流れより,いくつかのWebサイトにてプログラ +ミング教室を開催するための方法が公開\cite{web1}\cite{web2}\cite{web3}お +り,プログラミング教育の目的,使用教材,所要時間などが示されている。し +かしながら,実際に開催するとなったときにはその情報では足りず,計画手法 +や段取など,より現実的な部分が必要になってくると考えた。たとえば,小学 +生にプログラミングを教える体制,時期の設定方法,教える方法,実際の時間 +割作成など具体的な内容などである。 + +そこで,実際にプログラミング教室を開催する企画を立ててから授業を行うまで +の参考となるよう,2018年度,2019年度のRubyてらこったの活動を踏まえ手引書 +を作成した。手引書は,はじめてプログラミング教室を企画,運営する人にも分 +かりやすくなるよう,具体的な流れなどを含めて以下のような構成とした。 \begin{itemize} -\item 活動する人の必要な知識や能力、プログラミング教室を行う目的、小学生に身につけてほしい力、日程の立て方について -\item 企画したものを運営するための役割、業務内容、授業準備について -\item 授業の流れ、当日の準備について -\item 参加した小学生の感想 -\item 小学生に教える時の授業担当者、アシスタントそれぞれの注意点について -\item 企画、運営をするために何にどのくらいの時間をかけて準備しているのか、円滑の活動を行うための方法 + \item 活動する人の必要な知識や能力,プログラミング教室を行う目的,小学 + 生に身につけてほしい力,日程の立て方について + \item 企画したものを運営するための役割,業務内容,授業準備について + \item 授業の流れ,当日の準備について + \item 参加した小学生の感想 + \item 小学生に教える時の授業担当者,アシスタントそれぞれの注意点について + \item 企画,運営をするために何にどのくらいの時間をかけて準備しているの + か,円滑の活動を行うための方法 \end{itemize} -\section{結論} -参加した小学生は、プログラミング教育を通して、「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」、「工夫する力」、「伝える力」が身に付けることができたという結果になった。 -\section{今後の展望} -今後の展望については、以下の通りである。 -\begin{itemize} + \section{まとめ} + 参加した小学生は,プログラミング教育を通して,「知識及び技能」,「思考 + 力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」,「工夫する力」, + 「伝える力」が身に付けることができたと言える。 - \item プログラミング教室を運営をする人に手引を利用してもらう + プログラミング教室の受講前と後のイメージ向上に関する有意な差は得られな + かったが,これは元々の期待感の高い層のみに限られた可能性が否めない。必 + 修化され,全員を対象とした教室を開催する時には,イメージを悪化させない + 工夫がより一層重要と言える。 + また,Rubyてらこったのような本格的なプログラミング教室の開催により,形 + 式的操作の発達が促進されることも期待できるため,同様の本格的プログラミ + ング教室が多くの場所で開催されることを期待する。 -実際に手引を利用してもらいプログラミング教室を運営してもらう。そこで情報が不足していたり、改善をしたほうがよい場合は手引を修正する。 - - -\item アンケートの改善 +% \appendix +\section*{謝辞} +本研究は,平成30年度私立大学研究ブランディング事業タイプA「日本遺産を誇 +る山形県庄内地方を基盤とした地域文化とIT技術の融合による伝承環境研究の展 +開」の助成を受けた成果である。 -今回はアンケートと作成したプログラムにより身についた力の判断をした。プログラムができてもそれぞれのメソッドについてしっかり理解しているのか分からない部分がある。そこでアンケートに加え、学習した用語を実際にテストのように書いてもらう方法で判断し検証をする。 -\end{itemize} +\section*{付録} +本研究の成果として作成したプログラミング教室の手引書は,公開GitBucketサー +バにおいて以下のURLで取得できる。初等プログラミング教育の一助となれば幸 +いである。 + +\begin{tabular}[t]{lp{0.8\columnwidth}} + URL: & \scriptsize\url{https://www.yatex.org/gitbucket/HiroseLabo./2019-kameya/raw/master/tebiki2.pdf}\\ + & \includegraphics[bb=0 0 206 206,clip,width=0.2\columnwidth]{tebiki-url.pdf}\\ +\end{tabular} + +% QR: \includegraphics[bb=0 0 206 206,clip,width=0.3\columnwidth]{tebiki-url.pdf} \begin{thebibliography}{99}